高峰秀子と木村伊兵衛2012年09月25日 20:46

 写真はキネマ旬報社の書籍『高峰秀子』(監修:斎藤明美)の表紙。撮影はあの木村伊兵衛氏。高峰秀子さんはご自分の著書『にんげん蚤の市』(文春文庫)のエッセイでこの写真を次のように述べている。

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 グラビア写真の撮影で、木村さんが麻布の私の家まで出向いてくれたことがあった。とにかくフラリと家に入ってきたのはカメラも持たぬ背広姿の木村さんだけだった。
 私は黒無地の結城の着物で、顔もふだん着のスッピンだった。木村さんの右手がソロリと上着のポケットに入ったと思ったら、その手に吊り上げられるようにしてライカが現れた。

 「なんにもしなくていいです。そこに自然にいてくれればいいです。」という返事が返ってきて、木村さんはソロリとライカを眼の高さまで持ち上げた。シュッという、ライカ特有の鋭いシャッターの音が聞こえた。
 撮影は三十分足らずで終わり、「お邪魔しましたね、じゃ、ごめんください」と言って、またフラリと玄関から出ていった。きつねにつままれたような三十分だった。
 出来上がった「アサヒグラフ」のグラビアは四頁。唇や耳だけのアップもちりばめて、薄暗いバックの中に真珠の玉が浮かんだような、私とは似ても似つかぬ美女がいて、私は仰天した。木村伊兵衛、こういう人を『女蕩し』というのだな、と、私は思った。
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 高峰秀子さんは1924年生まれ。私より24歳年上、亡き父母の時代の大スターだ。くしくも今年は《木下恵介生誕100年記念プロジェクト》が催され、日本初のフルカラー作品となった『カルメン故郷に帰る』(当時のフジカラー・フィルムはASA 6とか)や『二十四の瞳』などがリマスター処理されブルーレイで発売されている。